路面電車

日向電軌(仮)

 ひなた荘のすぐ近くには、路面電車が走っています。作中で特に設定が語られている訳ではありませんが、よく見て分析することで、日向電軌(仮)の姿や、日向電軌を取り巻く温泉観光地の悲哀が見えてきます。

<図1>田舎町を走る路面電車
<図2>ひなた温泉前経由町役場行きワンマンカー

 路線長について、まず、「ひなた温泉前」電停から景太郎が通ってる予備校まで、片道1時間でした。路面電車の表定速度はだいたい10~15km/hですから、「ひなた温泉前」電停から予備校最寄り駅まで乗り換え無しだと仮定してだいたい12営業キロ程度であろうと考えられます。
 予備校最寄り駅は、起点となってるであろうJR線との接続駅近辺だろうと思いますが、問題は、「町役場」電停と「ひなた温泉前」電停との距離ですが、ひなた荘は元々老舗旅館だったという事や、第12巻で新たに作られたスパリゾートホテルが登場している所から、「ひなた温泉前」というのは、単にひなた荘(ひなた旅館)の前という意味ではなく、「ひなた温泉」という温泉観光地の電停である可能性が高いと考えられます。

<図3>ひなた荘を取り巻く軌道系交通網(『ラブひな∞』の情報を元に筆者作図)

 もし「ひなた温泉」が温泉観光地で、ひなた町(注1)がその温泉観光地を中心に発展した街だとすると、町役場は温泉観光地のすぐ近くにある可能性が高いでしょう(注2)。
 仮に「町役場」電停が「ひなた温泉前」電停の次の電停だとして、約12.5営業キロぐらいでしょうか。都電荒川線の終点早稲田停留場が12.2km営業キロですから、日向電軌は都電荒川線とほぼ同規模と考えていいでしょう。

 ちなみに、日向電軌の起点が日向駅ではなく西日向駅になっているのは、地形的な要因(多分、横須賀の辺りにありがちなリアス式海岸とかそんな感じの地形)によるものだと考えられます。恐らく、西日向駅で接続した方が、勾配の関係上都合が良かったのでしょう。
 あるいは、そもそも西日向駅自体が、(大曽根駅のように)日向電軌との接続のために誘致された駅なのかも知れません。

<図4>電車に広告を出す女子寮

 次に、なぜ「田舎街」のひなた町にこんな立派な路面電車が走っているかについて。
 前述の、「ひなた温泉」が温泉観光地であるという仮定を元にすれば、説明ができます。つまり、大正昭和期の観光ブームに乗って作られた、温泉観光のための鉄道だったのでしょう。
 大正末期から昭和初期にかけてであれば、既に軽便鉄道法から地方鉄道法に移行している時期ですし、鉄道として開業する旨みは、以前より無かったはずです。軌道法準拠であれば、既存の道路の上に敷設できますから、用地買収の手間も不要ですし、とっくの昔に開発が進んでる温泉観光地の中心部まで乗り入れることができます。この時期であれば、バスという選択肢もあったのでしょうが、それだけの需要を見込んでいたのか、あるいは、かつては硫黄も運んでいたのか、とにかく軌道として作られる事になったのでしょう。
 この頃の地方局地鉄道というのは、だいたい地元の有志(地元の資本家)がお金を出しあって敷くというのが一般的でした。
 もしかしたら、ひなた荘(当時はひなた旅館)も関わっているかも知れません。普通、旅館が前身とはいえ、女子寮が路面電車に広告を出すというのは、ちょっと考えられません。例えば、土佐電鉄の側面広告は、1年以上の契約で1枚1ヶ月21000円です(2013年3月22日確認)。もしかしたら、出資者特権で広告料を割り引いて貰っていた名残か、支援の意味も込めて広告を出しているのかも知れません。

<図5>生き残りのために日帰り客にも対応するスパリゾートホテル

 ここまでくると、なぜひなた旅館が廃業したかも、納得がいきます。
 観光地というのは、出発点となる街から1時間程度になってくると、徐々に日帰り客が多くなって、やがて観光地として認識されなくなってきます。
 日向電軌とJR線との乗り換えからひなた温泉までが約1時間。きっと、JR線が高速化して、日向電軌の起点がある街がベッドタウン化したのでしょう。こうなってくると、旅情もへったくれもないです。
 きっと、多くの旅館が潰れたでしょう。ひなた旅館も末期には経営的に厳しかったはずです。内湯を開放していたとしても、あの急な階段を登らなくてはいけませんし……。
 そこで学生向けの安い寮に転用したのでしょう。その背景として、周囲の交通環境の変化に伴って、(きつね辺りに)実質的にそんな感じに使われていたのかも知れません。

参考資料

画像引用元

図1~2・図4
赤松健『ラブひな 1』講談社,1999。
図5
赤松健『ラブひな 12』講談社,2001。

その他の資料

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