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続・本の国(キノの旅)

 私の名前は陸。犬だ。
 白くて長い、ふさふさの毛を持っている。いつも楽しくて笑っているような顔をしているが、別にいつも楽しくて笑っている訳ではない。生まれつきだ。
 私のご主人様であるシズ様は、ずっとあての無い旅を続けている。
 本来ならば、一国の王となるべき血筋なのだが、複雑な事情で、放浪の身になっている。
 いや、本人の正義感から、自ら放浪の身になったと言った方が良いだろうか。
 かくして、シズ様は、旅を続ける。そして、私は常にシズ様と共にある。

 ある日、シズ様と私は、一つの国に着いた。
 途中で会った旅人は「本の国」やら「とにかく本が沢山ある」などと言っていた。たしかに、城門では「何か本を持っているのか」と訊かれたし、国の真ん中には、大きな国立図書館もあった。
 しかし、
「何も無いじゃないか!」
 たまには本を読もうと、せっかく訪れたシズ様を待っていたのは、本も何も入っていない空の本棚だった。
 青白く光る蛍光灯の下に、そんな空の本棚が、広い図書館の奥まで、ずっと続いていた。
 本も、たしかにあるにはあったのだが、それらは、政府が作ったらしい歴史の本や地図、法律の本など、明らかに資料然とした物ばかり。
 すっかり読む気を失ったシズ様は、残念そうな足取りで図書館を出た。
 シズ様は首を傾げて、
「一体、どうなってるんだ」 「騙されたのでは?」と、私が申し上げると、シズ様は首を振り、
「なら、こんな大きな図書館は建てないだろう」
「では、ここは本の国で、何だかの理由で本が消えた……と?」
 シズ様は優しく頷き、その理由探しを含めて、少し国を見て回ってみようと言った。
 バギーのエンジンが唸りを上げ、よく整備されたメインストリートを走って行く。
 街にはあまり活気が無く、これは私の直感だが、皆、何かにおびえているような気がした。
「街に、あまり元気がないな」
 運転しながら、シズ様が呟いた。どうやら同じ事を考えていたらしい。
 しばらく走ると、広場のような所に出た。
 そこでシズ様と私は見た。赤く燃え上がる炎を。
 よく見ると、燃やされていたのは本だった。
 灰色の煙が、紙の燃え滓と一緒に、青い空へと、高く上がっていた。
 本だけではない。なにやら書かれた原稿用紙も、新聞も、束にされて炎に投げ込まれていた。
 シズ様は、近くにいた若者に、さっきの図書館での出来事と、この事について尋ねた。
 その男は、貴方は旅人ですね、と言ってから、
「少し前に、新しい法律ができまして、『有害な本』は、このようにすべて焼却処分する事になったのです」
 と、説明してくれた。さらに、
「城門で本を持っているかと訊かれたでしょう。『有害な本』をこれ以上この国に入れないようにする為ですよ」
 シズ様と私は、顔を見合わせた。

 シズ様のバギーが広い草原を走る。
 結局、あの後、国を少し見て回ったが、特に見るべき物は無く、売れる物は売って、買うべき物は買って、さっさと出国した。
 出国して、しばらく走っていると、男の背が見えた。
 脇には、街中でよく見かけた小型のモトラド(空を飛ばないタイプの動力付き二輪車を指す)が見えた。
 シズ様は、バギーを停め、軽く挨拶をした。
 その男は、ひどく嬉しそうに、
「ああ、さっきの旅人さん。また会えて光栄です」
「さっきは、どうも。貴方も旅人だったんですか?」
「いいえ、今、旅人になったばかりです。貴方も見たでしょ、さっきの。あれに嫌気がさしたんです」
 シズ様は少し考えて、
「すみませんが、あの事についてもう一度、今度は詳しく説明してくれませんか」
 今、旅人になったばかりの、その男は、燃やされた本についての説明を始めた。時に、悲しそうな表情を見せながら。
 あの国は本の国だった。世界で一番本が多い国だった。その事を国民はとても誇りにしていた。
 しかし、少し前、少年の犯罪が多発した時期があった。政府は、そういう犯罪を助長している本のせいだと考え、少しでも犯罪に繋がるような本はすべて『有害な本』とし、焼却処分にする法律を作った。
 こうして、図書館の大部分の本が消えた。
 しかし、小さい頃からそういった本に慣れ親しんでいる国民は、我慢ができなかった。
 ある者は、焼却されるはずの本を隠し持ち、またある者は、無いのなら自分で作れば良い、と、自分で物語を書いたりした。
 これでは意味が無いと、政府はさらに法律を強化し、隠し持ったり、自分で作っただけで、即逮捕できる法律を作った。そして『有害な本』も増えていった。
 国民の協力を求める為に、密告も賞金がでるようになっていた。
「それで町にあまり元気がなかったのか」
 シズ様は頷いた。
「はい。何か、『有害な発言』をした場合は、即刻、逮捕ですからね」
「それが嫌で、貴方は旅人になった……と?」
「私の友人で、こんな法律ができる前に、作家になるといって国を出た奴がいるんですよ。その時は、馬鹿にして笑っていましたけど、今になって、あこがれちゃったんですよね」
 男は自嘲ぎみに言った。
「最後に、あの誇りだった本が燃やされている光景を目に焼き付けておきたくてね。あそこに行ったんです」
 シズ様は、脇に置いてある小さなモトラドを見て、
「旅にそのモトラドでは、貧弱すぎませんか?私の知り合いは、もっと大きなモトラドにのっていましたよ。女性の、しかも子供なのに」
「なんの、さっき話した私の友人なんかは、歩いて旅に出たんですよ。それに比べたら十分です」
 シズ様は、親切な説明の礼を良い、これから始まる彼の旅を励ました。
 そして、またバギーは走り出す。

 バギーは、気持ちが良いほど青く澄み切った空の下、広い草原の真ん中を走りつづける。
 バギーを走らせながら、シズ様は一言、つぶやいた。
「焚書坑儒は国を滅ぼす・・・か」
「何ですか? それ?」
「昔、読んだ本に書いてあった言葉さ」
 シズ様は、優しく微笑んだ。
 国があった方向を見ると、すでに、城壁は見えず、ただ、灰色の煙が一筋、青い空へと続いていた。
 灰色の線が、青い空へと、ずっと続いていた。
 雲一つ無い、青い空へと…。

あとがき

 キノの旅二次創作です。
 実験的作品で、キノの旅の作品考察の上に成り立っています。文脈もできるだけ原作通りにと気をつけました(^^;)
 いや~とても恥ずかしいですね。旧作を改めて読んでみると……。
 ちなみに、これは児童ポルノ禁止法改正案に反対する意図で書きました。ホント焚書坑儒は国を滅ぼしますからね……秦王朝然り、ヒトラー然り……。
 ちなみに、この作品はキノの旅「本の国」を読んだ後に読まれると面白いかと思います。